この記事はHolmes Advent Calendar 2020 10日目の記事です。
こんにちは。HolmesでVP of Engineeringとして開発組織の組織づくりや採用を担当している守屋です。
最近はもっぱら子供のクリスマスプレゼントに頭を悩ませています。
この記事では約一年間運用してきた評価制度、特に目標管理の運用について、実践を通して学んだことを時系列に沿ってまとめてみたいと思います。大きく分けると制度の導入をした2020/1Q(1-3月)、定着と拡大を図った2020/2Q-3Q(4-9月)、暗黙知の言語化を図った2020/3Q-4Q(9-12月)に区切って記述しています。
制度運用にフォーカスしていますので、制度策定のステップについては触れていません。
アーリーステージでの評価制度と給与決定ロジックについて書かれていた、All Star SaaS Blogの金田宏之さんのウェビナー記事にインスパイアされ、このテーマを選びました。
想定される読者の方
主に開発組織での目標管理・評価制度の運用に悩まれている方はもちろん、チームや組織の方向性が揃わず力が分散してしまっているな、と課題を感じている方のちからになれればと思って書きました。
せっかちな方へ
学んだことを先にざっと書きます。
プロセスをぶらさないこと
始めたことは最後までやる。
制度の運用は挫けそうになることばかりですが、プロセスを守っていなければ公平感を感じてもらうことは決してできません。
期間や対象業務など、意思決定したスコープに対してはぶらさずにやりきることが最初の一歩だと痛感しました。
主観を磨き続けること
評価を完全に定量化し、主観が一切入らない状態にすることは、現時点においては方法が十分には確立されていないと思います。
それゆえ、一人ひとりの評価に直接関わる評価者の主観を磨き続けることが大切だとわかりました。
例えば「Aさんの等級に対して、業務Xの取り組み姿勢、最終成果は期待値に達していると判断できるか?」といった基準は、一次評価者同士での主観の磨き合いを抜きにしては納得感のある評価となりえません。
HRM(Human Resource Management)の知見を最大限取り入れる
口当たりの良さを求め、フレームワークや仕組みを導入した当初からベストプラクティスを捻じ曲げてしまうことの危険性については、システム開発に通ずるところ*1があると思います。
迷ったときには先達の知恵を惜しみなく使い、まずは型を守ることを強く意識しました。
また個人的には数年前ワークショップで同席させていただいた人事コンサルタントの坪谷邦生さんとの出会いをきっかけに、HRMの知見に触れることができました。
結果的に坪谷邦生さんの著書『図解 人材マネジメント入門 人事の基礎をゼロからおさえておきたい人のための「理論と実践」100のツボ』は、この一年間で最も繰り返し開いた本になりました。
導入(2020/1Q)
この目標管理・評価制度導入以前は、全社でOKRによる目標設定を行っていましたが、評価制度は存在しませんでした。
評価制度を導入するにあたって、OKRについては、Google re:workの簡潔な定義に明記されている通り、評価ツールではありません。
目標管理と評価制度で別のツールを運用することはこの時点ではまだ現実的でないと判断し、他社の制度などを参考にしつつ、MBOの思想をベースとして目標管理・評価制度を導入しました。
制度の理解醸成と導入の背景説明
最初に取り組んだのは、個々のメンバーへの制度そのものと導入背景に対して腹落ちするまで対話をするということでした。
それまで取り組んでいたOKRの運用については、フォーマットの自由度が非常に高く、成果やコンピテンシーのバランスについてもメンバーごとに大きなばらつきが許容されている状態でした。
しかし、評価制度と一体になった目標管理制度に移行するため、目標の中で成果と各コンピテンシーそれぞれに対する目標設定が必要となり、目標設定の難易度が上がったと感じるメンバーが多くいました。
当然業務時間を圧迫する要因となるため、何のためにこの制度を導入して運用するのか、一人ひとりに理解してもらう必要がありました。
このときは一人あたり約一時間時間を確保し、制度の背景についての説明や具体的な運用イメージを膨らませてもらい、そこから目標設定に入っていきました。
最初の個人目標の設定での悩みどころ
実際に運用する目標管理のシートは、多くの企業で採用されているものと近いものでしたが、初めて経験するメンバーも多く設定に苦戦しました。
特に下記のようなポイントで悩みが多く出ました。
- 成果目標の定量化
- 個人のビジョンと組織のビジョンがアンバランスな目標
成果目標の定量化
成果目標については基本的には定量的な目標値を設定することにしています。(例外もあります)
ありがちではありますが、KPIが自己目的化してしまわないように、定量目標を設定することの意義を伝えていきました。
KPIが自己目的化した例を挙げると、例えば組織目標として「ユニットテストのカバレッジをXX%に上昇させる」という目標を設定します。
この組織目標からブレイクダウンして、「個人が該当期間にコミットしたコードにより、カバレッジをxポイント向上させる」といった目標をメンバーが立てたとします。
この目標を追いかけると、業務上の重要性に関係なくテストコードの記述量を増やす方向に行動を起こしやすくなります。
本来組織目標としてテストカバレッジを設定する背景としては、コードの変更容易性を高めることや、testabilityを意識することでコードをcleanにしていきたいというモチベーションが強いと思います。
しかし単純に既存のコードへのユニットテストを増やすことだけにフォーカスしてしまうと、変更容易性が逆に下がってしまうという結果にもなりかねません。
そこで、個人目標としては「チームの作業ブランチからmasterブランチへのマージタイミング」といった意味ある変更の単位で、「CIで計測されるテストカバレッジを最低でも下げない」といった形で定量目標を設定します。
これを実現するためにTDDのスキルを習得したり、チーム内のコードレビューを行うといった行動目標を合わせて設定します。
個人のビジョンと組織のビジョンがアンバランスな目標
前出の坪谷さんの著書では、下記の通りに表現されています。
特に中途採用で、前職においてノルマ管理的な使われ方で目標設定を行われていた場合に、「個人のビジョンについて考えたことがなかった」というケースも少なくありません。
その場合、過去のキャリアの棚卸しやそのときに感じたことの言語化に伴走し、個人としてのビジョンを描くことから始めました。
その上で、個人のビジョンといま時点で持っているスキル、組織が個人に期待する役割を加味して目標のバランスを調整していきました。
(たまたま私の前職の上司がリクルート出身だったこともあり、慣れ親しんでいたWill Can Mustのフレームに寄っています。)
定着〜拡大(2020/2Q-3Q)
Holmesが導入した目標管理制度は評価は半年、四半期で中間評価・再設定を行う制度です。
このため、この期間には中間の目標の立て直しと下半期の目標設定が行われました。
特にこの期間では組織の人数が1.5倍に増えたこともあり、全員分のフォローを一人で行うことが難しくなりました。
そこで一次評価を担うメンバーの拡充と業務の委譲を進めていきました。
コンピテンシーの解釈についての明文化
この評価制度で定義されているコンピテンシー項目の等級に対する定義は、全社で共通の記述になっているため、開発組織のメンバーからすると実際の業務シーンを想像しにくいという課題がありました。
そこで、等級に対する定義を開発組織の業務に近づけた解釈を明文化し、目標設定前に全メンバーに共有しました。
その結果下期の目標設定では、年初の目標設定と比較して格段にスムーズに目標設定ができるようになりました。
具体的には、目標を最終的に承認しているCTOが一人あたりのメンバーとの目標設定に費やした時間が、年初の半分に短縮されました。
全員の目標設定スキルの向上と一次評価者の尽力に感謝しかありません。
特に各人の中で、評価制度のコンピテンシーの各項目への理解が醸成されてきたことが大きく寄与しました。
しかし、この時点で一次評価者同士やメンバー間で、その醸成された理解をすり合わせたり明文化する取り組みはまだできていませんでした。
暗黙知の言語化(2020/3Q-4Q)
3Qから4Qにかけての中間評価、四半期目標の設定に際して、一つのチャレンジを設定しました。
本人と一次評価者で練り上げる目標の精度向上を目的に、目標の承認を行うCTOを一人あたりが割り当てられる時間の上限を設定しました。
このチャレンジを成功させるために一次評価者の共通認識づくりに取り組みました。
結果的にこのチャレンジには成功し、その後もコンピテンシーに関わる様々な暗黙知を言語化することに取り組みました。
下記はその一例です。
MBO本来の意味と目的
振り返ってみると制度運用開始時点ですり合わせすべきことでしたが、その時点では考え及ばず、遅ればせながらこの時点で言語化を行いました。
過去の私自身も含め、MBOというとExcelで作られた目標管理シートをイメージされる方は非常に多いと思います。
しかしMBOを提唱したドラッカーは、Management by Objectives and Self-controlと定義しており、MBOを「目標と自己管理によるマネジメント」というマネジメントの哲学として位置づけています。
そのため、マネジメント哲学としてのMBOの共通認識を作るため、下記のように明文化し、一次評価者と認識のすり合わせを行いました。
- MBOは目標を手がかりに自らの仕事をマネジメントできる状態にすることが目的
- 定められた目標に照らし合わせることで、自らの成果を評価できる状態を目指す
- self-controlに依る、各人の目標への強い動機づけが引き出されることを目指す
また、self-controlを最大限発揮するために下記のようなパターンを洗い出しました。
- 本人が目標の設定に深く関わる
- 一方的に課されるノルマのようなものではない
- 会社・組織の課題を本人が腹落ちしている
- プロセスを守る
- 目標を達成することで評価されることが保証されている
- 画一的なプロセスで制度が運用される
- 身近な目標
- 本人が確信を持って設定した目標であること
- 面談や1on1のときだけ思い出すような目標ではないこと
一次評価者の役割
一次評価者の役割としては、下記の点にしぼりました。
- メンバーを正しく見る
- 事実を正確に把握する
- 信頼関係を築く
- 組織の未来を本気で考える
- 未来を自分の言葉で語る
- メンバーの疑問を払拭する
- 主観を磨き続ける
- 公平感を担保するために、一次評価者同士の主観のすり合わせる
おわりに
長文にお付き合いいただきありがとうございました。
これを書いているまさに今、期末の評価と来季の目標設定に組織全体で取り組んでいます。
まだまだ試行錯誤の最中ですが、約一年間で人も組織も大きく成長できるということを体感できたことが個人的に最大の学びでした。
「それ違うっしょ」というツッコミや、「めちゃわかるわー」といった共感などコメントやメッセージなど、なんらかフィードバックいただけるととても嬉しいです。
開発組織は超絶積極採用中です
ピープルマネジメントに関心があるエンジニアやデザイナの方はもちろん、「マネジメントとかマジ興味が湧かない」という方も、Holmesの目標管理・評価制度では一人ひとりの個性やなりたい姿を全力で応援しています。
少しでも興味が湧いたらぜひ一度カジュアルにお話しさせてください。
*1:質とスピード(2020秋100分拡大版) / Quality and Speed 2020 Autumn Edition内の「品質を犠牲にすればスピードは得られる?」に強く影響を受けています